｢獺祭｣の旭川酒造､初任給を突然10万円上げ30万円に　｢そこそこの品質の物を安く売っても負け続ける｡海外の人は高品質を理解してくれる｣

ここにきて『獺祭』の旭酒造が、新入社員の給料を突然「10万円上げた」意外なワケ
インフレなのに「安いニッポン」
2022.04.01
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/93817

やはり現場で働いている社員の一人一人が考えながら仕事をすること。そういう彼らに給与を出さないと会社はダメになりますよ。組織の核なのですから」

山口県岩国市の山間にある旭酒造の本社で、こう語るのは同社会長の桜井博志氏だ。いまや日本全国だけでなく、世界中で愛飲されている高級酒「獺祭」の蔵元である。

同社の大胆な「決断」が、経済界に大きな波紋を呼んでいる。この春、入社する新入社員（製造部門）の初任給を約21万円から30万円に、50％近くもアップさせるというのだ。

「旨い酒を世に送り出すには、製造部門のスタッフが一番の肝になります。彼らに自分たちの仕事が評価されているとプライドを持って働いてもらうためには、給与を上げるしかありません。
横並びの意識を取り払って、山口県内の企業であるとか、食品産業であることは考えずにいこうと決めたのです」

過去20年、日本人の初任給はほぼ上がっていない。'03年に大卒初任給の平均は初めて20万円を超えたが、現在（令和元年）でも21万円を少し超えているだけだ。
「安いニッポン」がすっかり定着するなかで、いきなりの10万円アップは大きなインパクトがある。

旭酒造は新入社員以外の給料も上げようとしている。まだ確定はしていないが、社員全員の基本給を5年で倍増するための制度作りが始まっているのだ。
これも、現在の日本人の平均給与が'90年代のピークを超えられずにいることを考えれば、画期的なことだ。

失われた20年とも30年とも言われる時代を経て、縮小を続ける日本経済において、「賃上げ」はほとんどタブー化していた。
デフレ経済が染みついた企業にとって、「安くて良いモノ」をつくることが至上命題化し、社員の給料を上げる経営者など、株主から非難こそされても、評価されることはまずなかった。

しかし、円安や資源高といった状況も重なって、いよいよデフレスパイラルの潮目も変わろうとしている。
これまでの「安くて良いモノ」至上主義に囚われている経営では、来るべきインフレ経済の波に飲み込まれてしまうだろう。

「多くの日本の企業は、近年、品質はそこそこでも価格的に安いモノを作って勝負し、アジアの企業に負け続けてきました。過度に高い品質を追いかけても意味がないという風潮もありました。

しかし、世界の人々は本当に良い品質のものは理解してくれますよ。それに良いモノをつくろうとして、高品質を追いかける組織は強くなる。
現場の社員が一人一人本気で考えないと、そんなモノづくりはできませんからね」

出たわね。