JR南武線の武蔵溝ノ口駅、「ミゾノクチ」としてブレイキンの世界的聖地だったらしい

世界に知られる「ミゾノクチ」、ブレイキン踊るため国内各地から川崎に移住

コロナ禍で開催され、無観客ながら日本中を盛り上げた昨年の東京五輪の閉幕から、８日で１年。神奈川県勢も多くの競技で躍動したが、県内では既に２年後のパリ五輪を見据えた動きが活発化している。その中心は新競技・ブレイキン（ブレイクダンス）の「聖地」、川崎市だ。（村松魁成）

高津区のＪＲ武蔵溝ノ口駅前。５日午後１０時過ぎに訪れると、改札前の窓ガラスを鏡に見立て、額から汗を流して練習する若者３人がいた。「ここは出会いや、つながりをくれた場所」と宮前区の会社員（２８）は話す。

ダンスの技術向上のため、４年前に愛知から引っ越してきた。今は仕事後に週に２、３日通い、終電近くまで仲間と踊る。「人に見られる環境がいい」と言いつつ、周囲の迷惑にならないよう音楽の音量や場所に気を付けることも忘れない。

駅前には、再開発で大きな窓ガラスと広いスペース、雨を避ける屋根ができた１９９０年代後半から、若者が集まるようになった。同市出身で現在は日本ダンススポーツ連盟ブレイクダンス本部長の石川勝之さん（４１）も、大学生の頃に輪に入り、本格的に踊り始めた。

９０年代前半から世界大会も行われているブレイキンだが、米国のギャングが抗争解決の手段にしたのが始まりとされるルーツや、集団が路上で大きな音を出して踊る様子から、「不良」のイメージがつきまとった。

石川さんたちは理解を得ようと、駅や交番に練習するダンサーの名前と職業、連絡先を書いた名簿を提出。区役所に活動を認めてもらう要望書を提出したり、地域の祭りに参加したりと奔走した。そのうちに石川さんが２００５年の世界大会で優勝し、他のダンサーも活躍するようになると、理解者も増えたという。

１８年には、川崎市が連盟と協力して世界ユース選手権大会を招致。この年に策定したまちづくりの基本方針にブレイキンを取り入れることを明記し、イベントも開くようになった。
溝ノ口は各国のダンサーが知る場所となり、東京五輪のキャンプ地視察に訪れた英国の担当者も、行きたい所に「ミゾノクチ」を挙げたという。今年７月に米国で開かれた「ワールドゲームズ」で金メダルを獲得した湯浅亜実選手（２３）、銅メダルの半井重幸選手（２０）も、本格的に踊るため、埼玉県と大阪府からそれぞれ川崎に移り住んだ。

連盟のブレイクダンス本部には現在、約１０００人が選手登録。ただ、大会出場者は増えており、競技者はさらに多いとみられる。

東京五輪ではサーフィンやスケートボードなどの新競技で日本人メダリストが相次いで誕生し、幅広い世代の理解が進んだ。石川さんは「東京五輪でブレイキンの選手も刺激を受けた。川崎のダンサーが、パリで金メダルを取れるようにしたい」と話している。

https://www.yomiuri.co.jp/sports/actionsports/20220807-OYT1T50067/

練習に励むダンサー（５日、川崎市高津区のＪＲ武蔵溝ノ口駅で）